更新日: 2011-12-29 09:18:26

東北地方太平洋沖地震の教訓からの住宅の耐震化

著者: psytex

編集者: psytex

閲覧数: 6114

Okgn btn gudie info favorite

1

はじめに

Photo by psytex

日本の耐震設計技術は世界トップのはずであった。
しかし、今回の東北地方太平洋沖地震による被災の後、
市街地は更地のようになっていた。
果たして人は、天災の前には永遠に無力なのか?
今回の震災現場の画像から、新たな耐震策を提案する。

STEP1

Photo by psytex

東北地方太平洋沖地震の被災現場からの画像に、住宅の耐震化の大きなヒントがあった。
1つは、一面がガレキの山となった被災地の中に、ポツンと残った住宅があり、その前で女性が泣いていた。
いわく「両親はチリ地震の津波を経験して、鉄筋コンクリート(RC造)で家を建てて、2階にいたのに、2階まで津波がきて‥‥」という話であった。
背後のRC造の住宅は、2階の窓が全部壊れ、津波が2階を貫通した事を示していた。
今回の津波は、最大3階レベルまで及んでおり、2階も安全ではなかったのは確かだ。
他の被災現場では、3階建てのRC造アパートの屋上に、津波に押し流された自動車が載っていた。
ただ、どちらも建物の高さを超える津波においても、RC造の躯体は耐えたのは事実だ。
震災において、阪神淡路大震災でも同様だったが、一面更地になった被災地にポツポツ残っている建物(学校、病院など)からも分かるように、RC造が最強なのである。
とはいえ、構造計算においては、RC造も木造や鉄骨と同じ地震力(水平荷重)に基づいており、なぜRC造だけが強いのか?
その理由を正確に把握して、RC造による耐震住宅を完全なものにしたい。

そもそも本当にRC造は、地震に強いのか?
阪神淡路大震災でも、今回も見られたように、「地震に強い」はずのRC造でも、中層ビルの足元の1~3階だけが潰れているケースが散見される。
実は、阪神淡路大震災においても、中越地震においても、倒壊した建築物の数%はRC造である。
それでは「最強」とは言えないようだが、実はそれらのRC造に共通の要素がある。
柱・梁によって構造を構成した「ラーメン構造」であるという点だ。
「柱・梁で構造を構成」するのは、木造に慣らされた我々には、当然のように思えるが、世界的に見ると決して多数派ではなく、西欧の積石造から中東・アフリカの日干レンガまで、ラーメン構造に対する「壁式構造」が広く普及しているのだ。
RC造においても「壁式RC造」があり、柱・梁によらず、壁自体を厚く(18~20cm)して荷重を支えているのだ。
「柱・梁がない」というと、不安に思われるかも知れないが、実は阪神淡路大震災でも壁式RC造の倒壊は1戸もなく、過去の大地震においても、中層のアパートが地盤不良によって倒れた(建物は倒壊していない)例があるだけで、RC造の中でも「最強」なのは、この「壁式RC造」なのである。
なぜ「柱・梁がない」ほうが強いかというと、柱・梁のフレームの間に壁があると、そこだけが剛性が増して、計算通りに力が伝わらず、たとえば上の階には壁がたくさんあって1階は駐車場やエントランスホールで開放的だと、横ゆれの力が1階に集中して、計算ではどの階も同等な強さを与えていたはずなのに、1階が潰れるケースが多いのだ。
それではと、最近では柱・梁と壁の間にエキスパンションジョイント(すき間)を設けて、壁を純然たる荷重として計算できるようにしているのだが、この考えの変な点は容易に分かろう。
そんな事をしてせっかく耐震性の強い壁を、弱点である荷重にしてしまうぐらいなら、最初から壁で構造体を構成すればいいのだ。
この「壁式RC造」を用いた、“最強耐震住宅”について考えてみよう。

STEP2 まず、「壁式RC造」の強さの秘密について。

Photo by psytex

1つには、「柱・梁でフレームを構成したラーメン構造」だと、簡単に構造計算できたのだが、「面で囲まれた壁式構造」では、力の流れが構造計算通りいかないので、構造計算とは別に「壁量計算」といって、両方向にバランス良く必要(以上?)な長さの壁を確保する事が法規で定められているのだ。
その結果として、同じ地震力に基づいて構造計算されているはずなのに、過去の大震災で(住宅規模の低層の壁式RC造は)1戸も倒壊していない、という事になるのだ。

2つ目として、「面で囲まれ」ているために、異常に剛性が高い点だ。
木造や鉄骨造、RCラーメン構造においても、構造体としての強度の他に、荷重における変形量を1/200(階高の1/200だけ上下階がずれる)以下に押さえるように法規で定められており(層間変形角という)、時には荷重を支える強度計算よりもそちらで引っかかる事もある。
ところが、壁式RC造においては、普通に先述の「壁量」を充たすと、層間変形角は1 /200どころか、1/5,000~1/10,000にもなり、地震でもピクリともしない構造体になる。
ただし理論上、壊れる時には一気にポッキリ潰れるはず、と思っていたら、阪神淡路大震災で初めて、壁式RC造の「滅失」が1戸出たというので、驚いて調査したら、地盤の方がギブアップして箱のまま傾いたのだった(傾斜が規定以上だと、倒壊しなくても「滅失」にカウントされる)。
要するに、剛性があまりに高いので、それを倒すような力が加わると、地盤の方が凹んでしまうのだった(それはそれでジャッキアップに金がかかるが、人命保護の観点からはベター)。
このように高い強度と剛性が、地震力に対して十分に設計された時、その強度は津波の力に対しても十二分に働くのだ(木造や鉄骨造は元々の自重が軽いので、それに応じた耐震力しかなく、津波のように自重とは無関係な外力の前にはひとたまりもない)。

さてこれらの点に加え、更に今回の震災の状況を踏まえると、「最強耐震壁式RC造住宅」の仕様は、以下のようにまとめられる;
1.火災の延焼のおそれのある隣家や、津波の押し寄せる海の方向(できたら海に戻る波の来る反対側も)の壁面に窓を少なくし、どうしても窓を設ける時には、小さ目にしてシャッターをつける。
2.上記の面が南面で、もっと日射が欲しい時には、建物をコの字形にして開放面を東にし、その中庭に面して大きな開口部を設ける(1戸でコの字にする規模がないなら、隣家と協力してでも)。
3.屋内階段が無理でも、最上階のベランダからでも屋上に上がれる階段を設ける。
4.屋上の手摺りは、鉄やアルミではなく、少なくとも60~70cmはコンクリートを立ち上げたパラペットとする(手摺りはその上につける)。
5.通常、壁式RC造におけるコンクリートの壁面は、外周だけでなく、屋内にも少なくとも1面は必要になるが(日の字形)、その中の「一」を津波の想定される面に直交させる。
6.基礎において、地盤に直結する杭基礎ではなく、地盤が多少弱くとも表層改良か柱状改良で済む土地を選ぶ(構造の剛性によって自然に免震構造になる)。

もちろん、費用さえかければ、どのような構造でも強度を増す事はできるが、日本においては住宅ローンを組む上で、予算の制限がある。
上記の方法によって、通常の住宅取得費用の範囲(3千万円前後)で、地震にも、地震に伴う火災や津波にも耐えうる、最強の住宅が可能になるのである。
RC造は坪単価で60万(FRP型枠によるローコストRC造)~80万円と、木造の倍近い価格であるが、最上段の写真において、巨大な船を上に載せても建っているガレキの中の建物と、そのガレキの値段の比較だと思えば、決して高い買い物ではないだろう。

まとめ

日本の住宅供給業者は(大工もハウスメーカーも)、ほとんどが木造か鉄骨造なので、この話をすると、即座に否定的なアドバイスをされるだろう。
また、こうした高強度な建物も、1戸だけではそこに浮遊物が引っかかって力が集中するので、海に沿った道路沿いに並べて建てて防波堤にする、あるいは集めて建てて中の建物を守る、といった形の都市計画的な応用によって、効果がさらに増大する。

追伸:
メールで問合せがあったので、ここでお答えしておきます。
ここで触れている「壁式鉄筋コンクリート造=WRC造」と、今、被災地で着工数を伸ばしているらしい「WPC造=壁式プレキャストコンクリート造(大成パルコンやレスコハウス)」はどう違うか、という内容でした。

1.「プレキャスト」とは、工場で鉄筋コンクリートパネルを造り、それを現場でボルトでつないだり、ジョイントの所に鉄筋を差してモルタルを注入したりして一体化したものです。

2.これは、建築基準法上の「壁式鉄筋コンクリート造」ではなく、実験などを経て個別に国交省の認定を取得したもので、その結果として、汎用性があるゆえに余力のあった壁式鉄筋コンクリート造のメリットは失われています。

3.本来、壁式鉄筋コンクリート造は現場でコンクリートを打設するために建物全体が同じ強度で箱状の構造体を形成するところ、プレキャスト工法では、鉄筋コンクリートのパネルをつなぐのは点々と締められたボルトだけで、ジョイントに差す鉄筋はすき間をふさぐ目的であり、完全な「一体の構造」ではありません。

4.また、個別に型式認定を取ったために、ギリギリまで壁を薄くでき、本サイトで取り上げた壁式鉄筋コンクリート造だと18cmある壁厚が、10~12cmほどしかありません。
鉄筋がパネル毎に途切れている上に、壁も薄いのですから、もはや壁式鉄筋コンクリート造と同列に語れる構造ではなくなっています。

このガイドは役に立ちましたか?ガイドの著者にお礼を伝えよう!

Okgn btn gudie info thunks b

54

psytexさんのコメント

2011/04/25 22:46:14

コメント有難うございます。
小生は建築関係者であり、ここでの内容は、宣伝になるか、
さもなくば自社の利益に反するかのどちらかですので、
このサイトでの直接のやりとりは遠慮させていただきます。
疑問の点がございましたら、OKAnswersの方でご質問下さい。

wpc100さんのコメント

2011/04/16 11:44:18

ガイドを拝見し感激しました。
私は、あなたが推奨される、壁式鉄筋コンクリート住宅の建築に従事する者です。
まさに私たちが日々提唱している事と、寸分違わない考えに驚き、勝手ながら
親近感さえ抱いてしまいました。
あなた様は建築の研究者でしょうか?
ぜひとも、直接お話しを伺いたくコンタクトを取らせて頂きたいです。
何卒、敬遠せずにご回答を宜しくお願い致します。

当ガイドは作成日時点での情報です。ガイド内容の実施はご自身の責任の元、ご利用いただきますようお願いいたします。

このガイドを通報する

著者名:
psytex

ブータンに3年、ケニアに2年、ソロモン諸島に1年半など、アフリカ、アジア、南太平洋を中心に、のべ8年の海外暮らしをしました。
OK Waveで回答してい...